Belleは2013年に製作された実話を元にした英国映画です。18世紀のロンドンを舞台にしており、主人公はDido Elizabeth Belle (1761–1804) 、スコットランド貴族とアフリカ女性との間に生まれた女性です。彼女は幼くして母親を亡くし、海軍士官の父親は船長として船に乗らなければなりません。
普通ならこうした子供が歴史の表舞台に現れることはありえないのですが、父親のJohn Lindsayは彼女を引き取り、叔父に当たるWillium Murrayに育てて欲しいと頼みます。このWillium Murrayがスコットランドの大貴族1st Earl of Mansfield、弁護士にして議員、数々の公的な要職を歴任し、英国主席裁判官にまで登り詰めた人物です。結局、Willium MurrayはDidoを預かり、常識的な格差は設けましたが、ほとんど家族のように扱い、同じく預かっていた甥の娘、Elizabeth Murrayとともに養育します。
DidoはWillium Murrayに信頼されていたようで、成長すると屋敷に付帯する酪農と養鶏の運営を任され、秘書のような仕事もしていました。酪農と養鶏の運営はまだしも、Willium Murrayの地位を考えれば、その仕事を手伝うに足る十分な教育をDidoは受けていたことになります。
Didoは30年ほどをWillium Murrayの屋敷、Kenwood Houseで過ごし、その後下級貴族の屋敷で執事をしていたフランス人、John Davinierと結婚、少なくとも3人の息子をもうけ、1804年に亡くなりました。
これがDidoについて知られている大まかな生涯ですが、映画は若干の脚色を行って、DidoとJohn Davinierのドラマチックなロマンスに仕上がっています。
Willium Murrayが英国主席裁判官をしていた時代、英国は奴隷解放へと方向転換していました。彼は商法や特許権法で実績を残した法律家ですが、奴隷に関わる裁判でも後世に残る判例を残しており、有名なサマーセット事件では黒人奴隷、ジェームズ・サマーセットの解放を命じています。
この映画では奴隷船Zong号の裁判が重要な柱になっていて、Didoと彼女の未来の夫であるJohn Davinierがその判決に深く関わってゆくことになります。
ストーリーを組み上げる段階で、John Davinierを下級貴族に仕える執事から、Willium Murrayに学ぶ法律家の卵に変えてしまい、他の細々とした設定変更も含めて、だいぶ史実と違うという声も上がっています。が、映画ですからね。
最後の判決を言いわたす場面も非常に印象深い仕上がりです。
映画の中でDidoとElizabethの二人を画家に描かせる場面があるのですが、この絵は実際に描かれて、現在は8th Earl of Mansfieldとその家族の住まい、スクーン宮殿のAmbassador's Roomに置かれています。本物も素晴らしい絵なのですが、映画の中では、これまたちょっと脚色されたものが描かれて、これも素晴らしい。
映画は米国で今年5月に、英国で6月に封切られ、つい先日DVDも発売になりました。日本のAmazonでも購入できます。
ちなみに、DidoのいたKenwood Houseですが、これも素敵な観光地になっているようです。レンブラントにフェルメール、名だたる画家の作品も展示されているようです。
追記
日本では映画館で京都ヒストリカ国際映画祭で上映が行われたようです。日本語版予告編もこちらで見ることが出来ます。また、日本語字幕つきのDVDが発売されることになりました。こちらからご覧ください。「ベル―ある伯爵令嬢の恋―」という題名で、恋愛映画として売ることになったようです。日本でWillium Murrayに興味を持つことは無理ですから、妥当な販売路線と言えるでしょう。
Kenwood House
Hampstead Ln
London NW3 7JR
WEB:http://www.english-heritage.org.uk/daysout/properties/kenwood/
Hampstead Ln
London NW3 7JR
WEB:http://www.english-heritage.org.uk/daysout/properties/kenwood/